メソッド
前章までは自分の認知の確認の仕方や、認知と行動・選択がズレることのメカニズムについて触れてきました。
この章からは認知のズレから起こりうる、いくつかの代表的な行動特性のパターンを挙げていきます。これらの特性は、発達障害などの生まれつきの脳の仕組みから来ている場合もありますが、認知のズレや行動・選択が、欲求とズレていて起こっている場合もあります。
─── 生まれつきなら治せない?
いえ、認知のズレや行動・選択の適正化で、その特性に気が付かないうちにとらわれることは解消できます。まずは自分がこうした特性になっていないか、正確に自覚する事が必要です。
今回は知らぬ間に陥りやすく、コミュニケーションを難しくさせたり、言葉を失わせる可能性の高い【完璧主義】のもうひとつの側面についてご案内します。
話しかけるのが苦手
完璧主義というと、【全て自分の理想通りに事が運ぶまでこだわる】というイメージが強く、バリバリ理想に猛進的に突き進むタイプと思われがちです。しかし、実際は引っ込み思案で内向的と思われている人にもよく起きています。
例えば人と会話する時に、【こんなこと言ってつまらないって思われたらどうしよう】とか、【こういうタイプの人が感心するのはどんな話なんだろう】と上手く会話を運ぶことに完璧を求めてしまう事はないでしょうか?
もちろん、会話の際に相手の反応を予想したり、好むであろう内容を予測して話すことは大事なテクニックなのですが、どうにもこうにも言葉が出なくなる方もいると思います。
相手そのものの反応を見ているのではなく、自分の中に創り上げた相手に、どう見られるかを気にしている。
完璧主義にも様々なタイプがありますが、実はこの観点に立ってしまった時に、周囲との歩調が乱れて衝突や緊張を生み出す傾向が多くなります。
完璧主義のパターン
完璧主義に陥る方のタイプは、そのこだわりの理由によって大きく4つに分けられます。
先ほどの会話に困るタイプのように、現実の相手ではなく自己に想定した相手に、自分の失敗を見せられないと思い込むタイプです。完全に把握した時しか動かなかったり、理想通りの状況でなければ、なるべく前に出ないよう目立たないように行動する傾向があります。
現実の相手ではなく、想定した相手に理想の自分を見せることに追い立てられるので、そのハードルの高さはどこまでも高くなる危険性があります。
自己強迫型と同じく、人に失敗を見せられないことに意識を向けていますが、この使命感型は【これくらいはできなくてはいけない】と、与えられた仕事や作業に対し自己の評価を掛けてしまいます。
【失敗=自己評価の低下】に直結してしまうので、手を付ける段階で激しく葛藤したり、止めどころを失う・効率より目の前の作業を消すこと重視で効率低下・抱え込みすぎる……といった使命感が強すぎるが故の問題が起こりやすくなります。
一度に複数の作業ができなくなったり、そこにある情報の取捨選択が出来なくなり、一つのことだけに意識が行ってしまう状態です。自閉症スペクトラムなど一部の発達障害の方や、精神疾患もしくは何らかの理由で大きく余裕を失っている時などに起こります。
終わりの線引がつかなくなり、延々とひとつの事実に没頭してしまい、対人関係や仕事などの様々なバランスを失うことも。
そこに関わる自分の立ち位置を見失い、全ての事に責任を感じる様な、【ミスの許されない使命感】に支配されています。例えば会社でお客さんに関わる仕事をしている時、お客様へのサービスや便宜という職務より、自分がミスをしないか・非を追わないかに強い責任感を持つなど。積極性が掛けたり逃げ腰になったりなど、防御・回避の姿勢になりやすい。
完璧主義への対処方法
まずは1~4章までの、認知のズレや行動・選択のズレ、そして【こうすれば、相手はこう動くだろう(例:いいことを言えば、振り返ってくれるだろう)】などのコントロールが起きていないかを確認して下さい。
その上で、“成功か失敗か”や“0か100か”、“全か無か”といった両極思考に陥っていないかを確認します。特に自己強迫型と使命感型は、自己評価を他人からの評価に頼ってしまっていることがあるので、“どこまでがOK範囲か”を設定する必要があります。
中途半端な状態がどうしても許せない場合は、それがどうして許せないのか、紙に書き出して見つめてみたり、1~4章の技法を行ってみてください。
会話や仕事などに関しては、【どこまでいけたら合格点か】を元に、その設定から70~80点程の達成目標をイメージすることで、使命感に突き動かされることが和らぐことがあります。
自分の中に創り上げられた【人の目】は、ハードルの高さに際限がないために、どんどん目標が高くなる傾向にあります。自分の現実のようで架空の【人の目】から、実際に現実とリンクした評価点へ意識を移すことで、そのループから抜け出しやすくなるようです。
1人称型は【誰のために・何のためにやっているか】を、一度しっかり思い返す必要があります。ただ、自分の役割や立ち位置を見失っている理由が、単に取り違えなのかパニックなどによるメモリの低下が引き起こした、【責任の個人化】なのかを確認するべきです。
シングルフォーカス型はその場で設定しなおしたり、気がつくのは難しくなりがちなので、“ここまで”などの明確な目標を設定したり、アラームなどで時間的なボーダーラインを引くなどの分かりやすい具体的なルール付けが必要になります。
次回は完璧主義とも結びつきの深い、両極思考についてご案内します。
ご案内
- 序章:switchメソッド
- 第1章:どうして『生きるのが辛い』のかその原因とは?
- 第2章:生きづらい自分を変える準備│認知と行動
- 第3章:いつも何か困っている│責任の個人化とスケジューリング法
- 第4章:自分の性格や人生を変える準備│選択とコントロール
- 第5章-Ⅰ:会話が苦手・行動に移れない・考えを譲れない│完璧主義とは?
- ├第5章-Ⅱ:謝れない、謝らない・極端な考え方をする│両極思考とは?
- ├第5章-Ⅲ:すぐ張り合う・プライドが邪魔をする│パワーゲーム思考とは?
- ├第5章-Ⅳ:自分じゃない・そこにいない感じ・実感が鈍い│離人感とは?
- ├第5章-Ⅴ:トラウマ・過去の失敗にとらわれる苦痛│フラッシュバックとは?
- └第5章-Ⅵ:硬直・混乱・感情的に叫びたくなる│フリーズ・パニック・癇癪とは?
- 第6章:人のせいばかり・自分のせいばかり│憤りとは?
- 第7章:フリーズ・パニック時に起こりやすい感覚│不安からのメモリ不足
- 第8章:物をよく落とす・ボーっとして集中力が出ない│実感に落とし込む
- 第9章:仕事の切れ間や“どこまで”が分からない│責任の境界線
- 第10章:人との距離が分からずオドオド・相談できない│自分の境界線
- 終章:switchメソッドとの付き合い方
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OTTO
家族・仕事・交友関係……etc.
心労と過労、カサンドラ状態に陥り3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。家族のASDについて学びながら、独自に心理学を楽しんでいる。
ASDについてはこちらのサイトでまとめています。
⇒アスペ一家 つかず離れず